メリークリスマス
あんまりクリスマスらしくない…かな。


Silent Night

「よく眠ってるわ」
そっと部屋をのぞいて彼女が言った。
「うん、よかった」
小さなゆりかご。
その少し離れた窓辺には、小さな、でも一つ一つが美しいオーナメントで飾られたツリーがそっと置かれていた。
その窓から見える空にはたくさんの星と、細い細い月。


フランソワーズが音を立てないように静かに部屋に入り、スイッチを入れる。
すぐに柔らかな金色の光がゆるく点滅を繰り返す。
今日は月明かりが少ないからこの光がとても映えるな、と心のどこかで思う。ゆりかごの中で少し動く気配がする。
彼女はそっと手を止めた。
息を潜めてその中をのぞくと、すやすやと寝息を立てたイワンの手が伸ばされていた。
「風邪、ひいちゃうわよ」
小さな手を取る。
本当に小さな手。こうしていると普通の赤ちゃんのようなのに。
フランソワーズは少し微笑んで、その手を毛布の中にしまった。


彼は持ってきた小さな包みをその枕元に並べた。
彼女は、置くのはツリーの下じゃないの?と言ったけれど、きっとこの方が気づいた時の喜びは大きいんじゃないかな、と思う。
自分が子どもの頃にはこんなことにはまったく縁がなかったけれど、なんだかそうした方がいいような気がした。


イワン相手にサンタクロースとはナンセンスかもしれないが、大抵の子どもが経験するクリスマスの夜につきあわせるのも、悪くないことに思えた。
ツリーに灯したあかりはもしも少し早く目覚めてしまった時のためだと、彼女は微笑んだ。

イワンの眠りならツリーのあかり程度で覚めるものでもないだろう。

そして、二人は目線で作戦の完了を確認する。
もう一度よく眠っているイワンの顔を見ると、そっとドアを閉めた。




「これでちょうどよく明日の朝、目覚めるといいんだけれど…」
リビングに戻ったフランソワーズが呟いた。
「そうだね。でも博士の予想でも、明日には目覚めるはずなんだろう?イワンの睡眠時間はわりときっちりしている方だし、大丈夫だと思うよ」
「そうね、ちょうどクリスマスの朝に目覚めるなんて、素敵ね」
フランソワーズが笑った。
「イワン、なんて言うと思う?馬鹿にするかしら、それとも子ども扱いするなって怒るかしら」
「さあ?どちらでもないかもしれないし…」
ジョーがとぼけて答える。
そんなはずがないことを彼は分かっていた。
フランソワーズが用意した贈り物だ。
普通の子どもだったら喜ぶような玩具には見向きもしないだろうけれど、彼女が考え、準備してくれた、その心はきちんとイワンに届くだろう。


窓の外には、月。
冬のきんとした空気に細く冴えている。
フランソワーズがいたずらっぽく微笑んで、リビングの明かりを落とした。
寄せては返す波の音が響いていた。
星がきらきらと輝いている。
「月は細いけれど、星あかりで明るいね。これならサンタクロースも迷わないだろうな」
いつの間にか隣に来ていたジョーが呟いた。
「そうね…。ほら、耳をすませば波音の合間に、鈴の音が聞こえそうじゃない?」
彼は黙った頷いた。本当にシャン、と鈴の音がしたような気がする。
彼が彼女を見て、微笑む。彼女も同じように笑みを返した。
「今夜は聖なる夜ですもの……」
そう言って彼女は空に向かって手を合わせ、祈りの姿勢をとる。
白い頬が淡い光にほんのりと照らされている。
そのフランソワーズの姿はどこか神々しいと、彼は思った。



「ン…フワァァ…」
ゆりかごから小さな手が伸ばされる。
一通り伸びをすると、イワンはゆっくりと頭を巡らせた。
「ン?…マダ夜ダッタカ…」
窓の外はまだ暗い。だが、その側に置かれた小さなクリスマスツリーが暖かな光を灯していた。
「アア…今日ハ「くりすます・いぶ」カ。フランソワーズカナ?」
ふわりとゆりかごを浮かせようとして、枕元に何かが置いてあることに気付いた。
綺麗な包みがそっと置いてある。
ちらりと視線を走らせると、包装紙がゆっくりとはずされていく。
「フフ」
中身を見て、イワンは小さく笑った。
柔らかなニットの帽子とくつした。
そして、新しいおしゃぶり。
もう一つは、大きなパッチワーク・キルトのカバー。
手の込んだ模様のそれは、一目で彼女のお手製だと分かった。


「スゴイナ、フランソワーズ」
主に用意してくれたのはフランソワーズだろう。
でも、きっとジョーと二人で考えてここに置いてくれただろう事は想像に難くない。
「僕ニモくりすますが来ルトハネ」
キルトがふわりと浮き上がり、ふわりとゆりかごを包みこむ。
「コレハ、オレイヲ シナクテハネ」
イワンが微笑む。


窓の外に、ちらちらと白いものが舞い降りてきた。
「コノクライナラ、ネ」
少し離れた空には星が輝いていた。
この家の周りにだけ、そして庭で静かに金色の光を灯しているもみの木に重点的に雪を降らせていく。
星あかりと細い冴えた月、きらきらと舞う雪が星あかりを映して淡く光を帯びている。
我ながら、なかなか気の利いた演出だと思う。
鈴の音もサービスしてやろうかと思ったが、それはやりすぎというものだ。
それに二人に自分が目覚めたことが分かってしまう。
そうすれば、きっと自分の元へと駆けつけてくるだろう。
そんな野暮なことをするつもりはなかった。
暗かったリビングの窓に、小さく灯りが灯る。
キャンドルだろうか?ゆらゆらと揺らめいている。
きっと二人もこの「お礼」に気づいただろう。
少しまずかったかな?と思い、様子をうかがってみたが、彼らがここへ駆けつける気配はなかった。
たぶん、少なくともジョーは、自分の意図を感じ取ってくれたんだろう。
男同士だからね。


「めりーくりすます。素敵ナ夜ヲ」
キルトが暖かい。
柔らかな金色の光とプレゼントに囲まれて、なんだかこそばゆい気分だ。
こんなクリスマスも悪くないな。
僕はこの静かな夜を楽しませてもらうよ、イワンはそう心の中で呟いた。


The end

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